「もう無理かもしれない」その一言が言えるまで長かった
認知症の介護は、体力だけじゃなく、心を削ります。
それも、ゆっくり、確実に。
最初は物忘れが増えただけでした。
同じ話を何度もする、財布が見つからないと言う、約束を忘れる。
家族は「年齢のせいかな」と受け止め、笑って流していました。
でも、ある時期から“違和感”が“生活の危機”に変わっていきます。
- 夜中に起きて家の中を歩き回る
- 冷蔵庫を開けて「誰かが盗んだ」と怒る
- 家族を家族として認識できない瞬間が出てくる
家族は、そのたびに説明し、なだめ、謝り、片付けます。
そして翌日も、同じことが起きる。
「昨日言ったでしょ」が通じない。
「頑張った」が積み上がらない。
毎日がリセットされる世界です。
見えない辛さは、家族の心を孤立させる
認知症介護の辛さは、外から見えにくい。
だから家族はさらに孤立します。
周りからはこう言われます。
「でも元気そうじゃん」
「ちゃんと話せてるじゃん」
「家で見てあげなよ」
その言葉が、家族を追い詰めます。
本人が調子のいい時間帯だけ見れば、普通に見えることもあります。
でも家の中では違う。
“安心できる時間”がないのです。
- 目を離すと外に出るかもしれない
- ガスの火が心配
- 何を口に入れるか分からない
- いつ怒り出すか分からない
家族はずっと“監視”に近い状態になります。
これは、仕事や子育てをしながら続けるには過酷すぎます。
「優しくしたいのに、できない」自分が嫌になる
一番きついのは、家族が自分を嫌いになる瞬間です。
怒鳴りたくない。
傷つけたくない。
でも、こっちも限界。
同じ質問を30回された日。
夜中に起こされ続けて眠れなかった日。
トイレの失敗を片付けながら、涙が止まらなかった日。
「なんでこんな言い方しちゃったんだろう」
「親なのに、愛せないのかな」
認知症介護は、本人だけでなく、家族の尊厳も壊していきます。
きっかけは、ある“ささいな事件”だった
転機は突然来ました。
夜中、親が玄関を開けて外に出てしまったのです。
家族が気づいたときには、すでに外。
寒い夜で、薄着でした。
必死に探して、近所で見つけた時、家族の手は震えていました。
「もし見つからなかったら…」
「もし車道に出ていたら…」
その瞬間、家族の中で何かが切れました。
「もう、家では守れない」
守りたいからこそ、家では限界だと認める。
それは、とても苦しい決断です。
施設介護の見学で、価値観がひっくり返った
相談の現場では、家族がまず言います。
「施設はかわいそうで…」
「できれば家で…」
その気持ちは痛いほど分かります。
でも認知症は、気持ちだけではどうにもならない現実があります。
見学した施設介護の現場で、家族が驚いたのは“空気”でした。
- 職員が命令口調ではなく、選択肢で声をかけている
- 怒っている入居者にも、距離感を保って落ち着かせている
- 徘徊も「止める」ではなく「安全に見守る」仕組みがある
認知症の方に必要なのは、
「正しさ」より「安心」。
「説得」より「環境」。
家族はそこで初めて、
家での介護が“間違い”だったのではなく、環境が合っていなかった
と気づきます。
入居後に起きた変化は、本人より家族に先に出た
施設介護に入居してすぐ、家族が感じたのは、罪悪感ではなく――
静けさでした。
- 夜、眠れる
- 仕事中に心がざわつかない
- 電話が鳴るたびに怯えなくていい
そして面会に行くと、親は意外にも落ち着いていました。
完全に元に戻るわけじゃない。
でも、表情が柔らかい日が増えた。
職員さんと笑っている瞬間がある。
食事のペースが整ってきた。
家族は思いました。
「家にいた時より、穏やかに過ごせてるかもしれない」
家族が笑顔を取り戻したのは、逃げたからじゃない
この事例の本質はここです。
施設介護は、
“家族が手を離す場所”ではなく、
家族が壊れないための場所でもある。
介護する側が潰れたら、本人も守れません。
認知症介護は、
愛情があるほど、限界が遅れて来ます。
だからこそ、気づいた時にはもうギリギリ。
「もっと早く相談していれば…」
そう言う家族が多いのは、そのせいです。
この実話から伝えたいこと
認知症介護で限界を感じるのは、弱さではありません。
むしろ、普通です。
それほど負荷が大きい。
もし今、
- 夜が怖い
- 家に帰るのが憂うつ
- 親に優しくできない自分がつらい
- “事故”が起きそうで常に緊張している
こう感じているなら、もう十分サインです。
施設介護は、
本人の安全を守り、
家族の生活を守り、
関係を壊さないための選択肢です。
「家で看る」だけが親孝行じゃない。
穏やかに生きられる環境を選ぶことも、立派な愛情です。
一歩踏み出す勇気、一歩踏み出して行動したことで、考えがかわりました。
※この実話は「施設介護に助けられた5つの実話」シリーズの一つです。
ほかの事例(在宅介護の限界/認知症介護/独居の不安 など)もまとめて読みたい方は、親記事で全体像を確認できます。


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